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紙枕の中にある

本とエッセイ

世界SF全集 第28巻「星新一」

世界SF全集

世界SF全集読破の記念すべき第一巻目は、原稿用紙10枚に満たない小説(ショートショート)を生み出した作家、星新一にした。

 

恥ずかしい話だけれど、僕は星新一という作家について全く知らなかった、2011年当時彼はまだ存命している作家だと思い込んでいた。

浪人時代の2011年ごろ、小説を読むことに耽り、よく予備校帰りに書店へ寄っていた。その書店は品揃えが悪く、よく新潮文庫重松清という作家の隣に置かれることが多かった。また星新一の豊富な作品群がずらっと並んでいるのを見て、売れっ子作家の一人なのかなと勝手に思い込んでいたのだ。

当時、僕は太宰治城山三郎安部公房吉村昭などの新潮文庫を中心に乱読していたけれど、星新一の文庫には手が伸びなかった。それは、タイトルがどれもこれも子供の絵本のような単純で幼稚そうで中身がなさそうだと、読んでもないのに勝手な偏見を抱いていたからだ。

 それは今にして思えば、読まなかったことで彼の作品を新鮮な気持ちで読める喜びがあるから読まなくて正解だったと思うし、予備校に通ってまで大学受験をしようとしている人間は、そんな精神的な余裕はないとも思う。

 

星新一という作家がどんな生涯を送ったのか、動画がYouTubeにある。(以下)

www.youtube.com

 

超短編を作り続けた作家というが、その数はなんと1001編に及ぶという

今回この全集に収録された100編でだいたい460ページなので、すべておさめた場合は単純計算で4600ページ(!)ということになる。

 

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(世界SF全集の実物。これがあと9冊分で1001編。)

 

僕は、この動画を見てから彼の「おーい、でてこーい」を読んで衝撃を受けた。

短いながらも、一度読んだらずっと忘れられないような話。

それは、寓話的で不思議な話であり、僕らの世代では「世にも奇妙な物語」のようで話に引き込まれる魅力があった。

 

 話を戻して、なぜ今回の全集読破で最初に選んだかといえば、とっつきやすいし短いからだ。例えるなら、胃もたれのするメインディッシュの前の、前菜を食べ始めたようなものに似ていると思う。

 ちなみに、このSF全集には全集の特徴である月報も付いており、2007年には月報のみをまとめた本も出版された。

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(寄稿は福島正実・ 都筑道夫真鍋博。)

 

 さて、この本に収められた100編すべての感想を書く力はないので、個人的に気に入った作品を箇条書きで取り上げたい。

 

≪おーい、でてこーい≫

ゴミ処理を題材に、人間の因果応報を描いた有名な作品。星新一といえば、この話を思い出す人は多いと思う。 

 

≪情熱≫

巨大な宇宙船を作り、宇宙旅行を計画した地球人。だが別の惑星から苦労して来た、

宇宙船の人々の話を聞いて未知の宇宙への情熱が変わっていく。

 

≪コビト≫

 サーカスでみじめに働かされる、小さいコビト。その哀れな姿に人々は同情し、法廷でコビトの人権が保障される。それを合図に、地下に潜んでいた大勢のコビト族が出てきて…

 

≪幸運への作戦≫

幸運開発計画研究所で、幸運をまねきよせるネコを買う独身の男。ネコの力を頼りに、ある女と結婚するが、実は彼女の方も幸運占領計画研究所から犬を買っていた。

 

≪善意の集積≫

短編漫画化もされた作品。生まれつき失明している少女が、化け物のようなポブ星人にやさしく接する。やがて、ポブ星人に連れられて惑星に行き目を治してもらう。初めて目にしたポブ星人たちと自分の姿の違いに恥ずかしくなり、少女は体も整形してもらい、地球に戻される…

 

≪テレビシート加工≫

紙よりも薄いテレビシートで、現実拡張のように家じゅうがさまざまな風景で彩られた未来。人々の生活に普及し、エヌ氏もその生活に満足していた。だがある日、車のテレビシートが古くなり規則違反でただのコンクリート部屋に留置される。

 

≪あすは休日≫

2027年、今日もエヌ氏はせわしなく機械の声に起こされて出勤する。出勤から帰宅してベッドに入ったとき、これが朝ベッドで飲んだ薬の副作用だと気づく。

実は、すべての仕事がオートメイション化し、人間は働く必要がほとんどなくなった。

この薬は、何かをせずにいられない人間の勤労感を満たす薬なのだ。

エヌ氏は、明日の休日をどう過ごすか考えてうれしそうな表情になる。

 

 

≪感想≫

 読み終えた感想としては、流石に100編もの短編を連続して読み続けるのは、さすがに胃もたれが起きそうになった。

 でも、そんな中で印象に残る作品は確実にあったし、現代でも通用する風刺を短編に含んでいるというのが、星新一という作家の凄さであり、SF作品・ショートショートの醍醐味なんだろう。SF作品のさわりに、ショートショートは道案内役としての役割を果たしていると言っていい。

 小説を読むのが退屈、苦手だと感じる人には、まず星新一から入ってみるといいかもしれない。といっても、僕が薦めるまでもなく今日において、彼の作品は多くの読者に読まれ、これからも愛されるのだが…。